なるほど!義歯(入れ歯)講座

義歯の知識とお手入れ・管理のコツを


皆さんは「8020運動」というのをご存知ですか?

「80歳で20本の歯を保って健康的な食生活を!」という歯科医師会が提唱している運動です。

ところが、実際には「8010」、つまり80歳で自分の歯は10本くらいしか残っていないそうです(平成23年)。
日本人は50歳ごろから歯を失っていきますので、平均寿命である80歳までの30年近くも義歯(入れ歯)のお世話になる可能性があります。

歯を失うことはお口の健康にとってマイナスでありなんとかして避けたいものですが、残念ながら義歯を使う必要が生じた場合には、より快適に使用する工夫が大切です。

義歯をお使いの方、あるいは身近な方が義歯を使いの場合には、その管理方法やお手入れの方法、食事の際に注意するポイントを知って、快適な義歯生活をお送りいただきたいと考え、トピックスに取り上げました。



義歯ってどんなもの?


ひとくちに義歯といっても、お口の中に残っている歯の数や場所によって入れ歯の種類は様々。

まさしく十人十色で、すべてお口の型を採って作るオーダーメイドです。

すべての歯を失った方は総義歯、歯が残っている方は部分義歯を装着します。

総義歯は歯とハグキの部分とからできています。

部分義歯は、歯とハグキ以外に、残っている歯を利用して義歯をはずれにくくするための金属製のバネ(クラスプ)や、人工の歯と歯を橋渡しするバーが加わっています。

 

いずれも作る材料によって保険が適応できる場合と自費の場合とがあります。

 

こちらは歯の無い方のお口の中です。

総義歯です。保険適用の場合は金属は使われません。

 

下の写真は下顎の部分床義歯(保険適用)で、金属のバネで自分の歯をつかんで固定します。

 

保険適用外の義歯には金属床の総義歯や、残った歯に磁石を取り付けてはずれにくくするマグネットの部分床義歯、バネを金属以外の材料で作った目立たない義歯などがあります。

 


 

義歯は管理が大切!

 

義歯は、お使いの方に良くなじめばひとつの人工臓器といえます。

そして、視点を変えてみると、食べる・噛む・飲み込む・しゃべるための道具でもあります。

 

日常的に使用している道具と同じく、正しいお手入れをする必要があります。

義歯は使うことによって当然汚れてくるものです。

タバコのヤニ、コーヒーやお茶のシブ、食べカスなどが原因です。

 

これらの汚れを放置しておくと、口の中に常に存在する細菌の棲み家となり、口臭や口内炎、あるいは高齢者の全身的な疾患として特に注意を要する肺炎の原因になります。

中でも一番頻度が高いのは口臭です。

なんとなく臭うなあ、というだけでお話相手は一歩後ろに引いてしまい、親密なコミュニケーションは望めません。

 

口臭があっても本人は意外と気づかず、知らないうちに家族や友人に距離をおかれてしまうきっかけになります。

おいしい食事、そして快適なコミュニケーションのために、義歯は毎日適切に管理する必要があります。



お手入れ方法


1)義歯をはずしたら

原則的には、義歯は夜寝ているときにははずしてください。
歯やハグキを休めて、お口の中が新鮮な唾液に触れ合う状態が好ましいと考えられているからです。

義歯のほとんどにハグキに相当するピンク色のレジンという材料が使われています。

これは乾燥すると変形したり割れやすくなったりしますので、はずしているときの義歯は必ず水の入ったコップやケースに保管しましょう。


なお、夜間はずしているときに市販の義歯洗浄剤などを使うとより清潔に使用でき、いやな臭いも防ぐことができます。


ただし、洗浄剤の中には義歯の金属に良くない成分を含むことがありますので、説明書をよく読んで選んでください。

 


2)義歯を洗う

義歯は少なくとも1日一回丁寧に洗いましょう。

小さな部分義歯では使い古しのハブラシを利用してもよいですが、たくさんの人工歯をもつ義歯では専用のブラシを使った方が効果的に洗えます。
落とすと割れることがありますので、洗面台で水をためて洗うとよいでしょう。

義歯で汚れが溜まりやすいのは、歯と歯の間のくぼみや金属とレジンとの接合部分です。

そこになにか白っぽいものがこびりついてきたら、それは間違いなく汚れです。

時間を置くと硬くなりブラシで取れなくなりますので、毎日こまめにお掃除してください。

 

小さな部分義歯の方は、ハミガキのときに義歯をはずさないで磨いて終わりとしがちですが、それではバネの周りや義歯の裏の汚れが残ったままになり、非常に不潔です。

必ずはずして洗いましょう。

なお、通常、人工歯やハグキの部分はブラシで変形することはありませんが、金属のバネの部分は変形する恐れがあるのでやさしく丁寧にブラシをあてて洗ってください。


3)自分の歯もみがく

部分義歯の方は、必ずご自分の歯もハミガキしてください。

特に金属のバネがかかっている歯は、義歯をはずれにくくするために大きい負担がかかっている上に、汚れが溜まりやすいものです。

その歯がむし歯になったり歯周病でぐらぐらしてくると、義歯が合わなくなってしまいます。

 

歯の残っていない方は、義歯をはずしたらよくうがいをしましょう。

このとき洗口剤(うがい薬)などでお口を清潔に保つのもよいでしょう。



こんなことしてはいけない!


いけない1)ブラシにハミガキ剤をつけて磨く
ハミガキ剤の多くに研磨剤が含まれているため、ブラシでゴシゴシすると義歯が削れて傷つく恐れがあります。
義歯専用のハミガキ剤か、通常の石鹸を使用してください。

ハミガキ剤を使って磨くと傷つきますよ!


いけない2)義歯を煮沸消毒する
清潔にと思って義歯を高温のお湯で洗ったり、煮沸消毒することは止めましょう。義歯の変形を起こす原因になります。
80℃以上のお湯は変形の原因になります。

いけない3)ゆるんだバネを自分で調節する
義歯がゆるい、あるいはきついからといって、ご自分でバネを調節したり、義歯を削ったりしないでください。

バネのかかっている歯に異常な負担が生じたり、無理な力で義歯がこわれたりします。

自分で調節するのは変形のもとです!


いけない4)合わなくなった義歯をいつまでもいれたり、口の中でもてあそぶ
痛みや不具合の生じた義歯をそのままお口に入れておくことは、歯やハグキに悪い影響を及ぼします。

合わなくなった義歯が自然となじむことはまずありませんので、おかしいと思ったら早めに歯科医院で相談しましょう。

 


 

義歯が合わなくなったら?

 

義歯はひとりひとりのお口に合わせたオーダーメイドの道具ですが、使っているうちに人工歯が擦り減ったり、ご自分のハグキや歯の状態が少しずつ変化することによって、噛みにくくなったりパカパカはずれやすくなったりします。

 

合わない、痛い、噛みにくいなどと感じたら、必ず歯科医院を受診しましょう。

今は様々な義歯安定剤が市販されていますので、ご自分で調整される方も多いことでしょう。
確かに一時的には痛みが収まったりはずれにくくなったりしますが、あくまでも応急処置と考えてください。

義歯は会話やお食事のときの筋肉や舌、アゴの動きと密接に関わっており、合うように調節するには専門的な技術が不可欠です。こまめに主治医にご相談ください。



長く快適に義歯を使うために

義歯は精密なお口の型をもとに作りますが、出来上がってすぐになじむものではありません。

それは、義歯を使って食事をかんだり、おしゃべりしたり、様々な動きのなかで機能するためです。

 

痛い部分を削ったり、かみ合わせを調整したりして、少しずつご自分の動きに合った義歯になっていくのです。

 

ですから、何か気にかかることがある時には早めに主治医にご相談してください。

また、義歯がぴったり合って調子が良いときにも、半年に一度くらいは定期検診で義歯とお口のチェックをしましょう。


自分で気がつかないうちに義歯とハグキの間に隙間ができていたり、歯がむし歯や歯周病になっていることがあります。

重症にならないうちに早めに治療するのが義歯を長持ちさせるコツです。

なんとなく食べにくい、噛みにくいものが増えてきたという場合には、義歯を調整・修理、あるいは作り直すことで食事のバリエーションがぐっと拡がります。

 

栄養を取って食欲を満たすだけでなく、楽しくおいしく食べることで生活の質が向上します。
人生の大きな楽しみである食べることを大切にしたいものですね。

 

おいしい食事は快適な義歯から!

義歯を快適にお使いいただきたいと考えてのトピックス、いかがでしたでしょうか?

 

「歯医者は痛くなってから行くもの」などとおっしゃらず、より気持ちよく生活するためのお手伝いの場所として気軽にお立ち寄り下さい。


2019年07月01日