かわいいこどもの歯を守るには?(前編)


 

白く輝く乳歯!


玉のように輝きながらこの世に誕生したかわいい我が子。

その小さなお口に歯が生えてくるのは生後6ヶ月ごろからです。

 

通常、まず前歯が登場し、だんだんと愛らしい白い歯が増えてきます。

乳歯20本すべてが揃うのは3歳のお誕生日前後です。


 

さて、この乳歯にいつの間にかむし歯が!?

1歳半の健診で「むし歯あり」と指摘されてショックを受けるママ、パパは結構多いものです。


ちゃんと歯磨きしていたのに、フッ素も塗ってもらったのになぜ?

実はおかもと歯科の看板息子その1(現在3歳)にもすでにむし歯があります。
お恥ずかしい限り、という気持ちはさておいて、両親そろってプロの歯磨き屋さんに毎晩磨いてもらっているにも関わらずむし歯ができるということは、何か歯磨き以外の問題があるに違いない、と真剣に子供のむし歯を考えるようになりました。

よく口腔衛生指導の中で、

「むし歯は親の責任です!」

と、ママたちにプレッシャーを与える言葉が投げかけられます。


そういう面もあり、そうでない面もあり、というむし歯ができるプロセスと私たちができる予防策を中心に、前・後編に分けてお話したいと思います。


 

 

むし歯って何?

むし歯と言われるのは、単純に言えば歯が酸で溶かされた状態です。
この酸は、お口の中にいる細菌が作り出しています。

お口の中には腸内細菌と同じようにいろいろな菌が存在するのが普通の状態です。
でも菌の中には歯の表面に付くのが好きで、しかもごはんを食べては酸を作り出す困ったチャン(むし歯菌)がいるわけです。

 

 

 


一般的に知られているむし歯菌はミュータンス菌です。


よくテレビのCMで「プラークコントロール」といわれるようになりましたが、プラーク(歯垢)とは歯の表面に付いた食べカスだけでなく、そこに細菌がいると考えてください。


つまり、プラークはミュータンス菌のおうちのようなもの。
ここに新たにごはんを届けると、ミュータンス菌は喜々として酸を作り出すわけです。

(電子顕微鏡で見たミュータンス菌)




むし歯はどうやってできるの?

さて、歯の表面は人間の体の中で最も硬いエナメル質で覆われています。

ちょっとやそっとの酸ですぐにはやられません。
ミュータンス菌が作り出す程度の弱い酸があっても、少しの時間ならへっちゃらです。

ところが長い時間となると、じわじわエナメル質が溶かされていくのです。

むし歯とは、ミュータンス菌酸を作り時間をかけて歯の表面を溶かすことなのです。

(むし歯で溶かされた歯の断面図)

 

そこで、次のキーワードをもとに、子どもの歯を守る手立てを考えましょう。
 
「ミュータンス菌が」→①ミュータンス菌をやっつける!

 

「酸を作る」→②酸を作らせない!

 

「時間をかけて歯の表面を溶かす」→③時間をかけさせず、歯を溶かさせない!

 



①ミュータンス菌をやっつける!?

まず、むし歯にならないための一番の予防策は原因を作っているミュータンス菌をなくすこと!というのはまさに正論です。

もう20年も昔に、どうやらミュータンス菌は離乳食の頃から2歳前後にかけて口移しの食事などを介してママから子供に感染しているらしいと報告されました。

そこで、究極の予防策はミュータンス菌を感染させないこと、となるわけですが、これまでに子供のお口のミュータンス菌をゼロにできたという報告はありません。


また、感染源がママだけとは限りませんので、あまり神経質に「感染させないわ」などとがんばるのはお勧めできません。


別の報告によれば、歯がないお年寄りのお口からはミュータンス菌が見つからないそうですので、歯があればミュータンス菌はいて当然といえるのかもしれません。

ただし、お口の中に住む様々な菌を調べたところ、ミュータンス菌の割合が多いママほど子どものお口にも多く、逆にお口の清掃に気をつけて菌を減らしたママでは子供のお口の中のミュータンス菌も少なくて済んだとのこと。


ミュータンス菌の割合が少ないほどむし歯になるリスクが減るので、妊娠中からママのお口の健康、清潔を心掛けましょう。

最近では、ミュータンス菌を減らすための除菌剤、殺菌剤が開発されつつあります。
まだ臨床的な試験報告が揃っていないようですが、すでに大人のお口では除菌剤を併用したむし歯予防プログラムが始まりつつあります。


将来的にはむし歯を作る菌をすべて薬剤で無くせるかもしれません。

ただし、それが果たして真のお口の健康、体の健康に役立つかどうかは疑問です。


ミュータンス菌がいなくなったら歯周病を起こす菌の勢力が増したり、あるいは別の病気が目に見えて増える可能性も無いとは言えません。


自然界で言えばハブを減らすために放ったマングースが、食べるハブが減ったらアマミノクロウサギを獲るようになって大問題、というのに似ているかも?

少なくとも、ミュータンス菌がお口の中の常在細菌のひとつであるなら、その勢力が強くならないように防ぐというのが私たちの取りうる予防策ではないでしょうか。

 



②酸を作らせない!?

ミュータンス菌は、主に炭水化物(でんぷん)やショ糖(砂糖、果糖、乳糖など)をもとに酸を作り出します。


特に砂糖はむし歯との関連がはっきりと認められており、むし歯を予防するには砂糖の摂取量をなんとしても減らすべきだと考えられてきました。

そこで、ミュータンス菌が歯を溶かす酸を作れないような甘味料を、という発想から代用糖が生まれました。


市販されているガムやアメなどに「シュガーレス」と記載されているものは、甘味料として砂糖ではなくキシリトールやパラチノースといった代用糖が使われており、菌が酸を作ることができないのでむし歯を予防できるというわけです。

 


中でも近年注目されているのはキシリトール。

酸を作らせないだけでなく、菌の生育を阻害したり、歯の表面の再石灰化を促進してむし歯から歯を守るという性質があります。


したがって、アメやガムをどうしても食べたがるお子さんには、砂糖入りのものよりキシリトール入りのものを勧めたほうがいい、といえます。

ただし、キシリトールでむし歯を完全に防げるわけではありませんので過信は禁物です。

また、砂糖の摂りすぎは確かにむし歯の予防から考えて避けるべきですが、ゼロにしなければということではありません。
後述するように、摂り方に注意していただければ適量をおいしく食べて問題なしです。

ミュータンス菌が酸を作るのに利用するのは砂糖だけではありません。
私たちが様々な食品を食べて生活する限り、多かれ少なかれ菌が酸を作り出すことは間違いないでしょう。


この①②のキーワード、「ミュータンス菌が酸を作る」に対しては、どうやら簡単には太刀打ちできそうにありません。がっかり?

でも、ここから先がパパ、ママ、おじいちゃん、おばあちゃんの努力のしどころです。
どうぞ後編をお楽しみに! (つづく)



2019年07月01日