歯周病は体の病気の引き金なの?

 

驚きべき全身疾患との関わりが…

 

皆さんご存知かもしれませんが、歯周病とは歯を支える骨とそれを取り巻くハグキの病気です。

成人以降に歯を失う最大の原因である歯周病は、ある程度病状が進むまでは痛みを伴わないので、いざ痛みやハグキからの出血、歯の揺れに気づいたときには重症となっていて、大切な自分の歯が抜けていくことになりかねない病気です。

 


近年、このお口の病気である歯周病が全身の疾患と深く関わっていることが明らかとなってきました。
その原因は、歯周病を起こすプラーク(歯垢)中の歯周病菌にあります。

今回のトピックスでは、命を脅かすような疾患と歯周病との関わりを取り上げ、皆さんにちょっと「こわーい!」と驚いてもらい、お口の健康についての意識を高めていただきたいと思います。
   



肺炎を引き起こす!?

 

歯周病の原因となる歯周病菌が気管や肺に進入し、気管支炎や肺炎を起こす危険性が指摘されています。


特に高齢者は物を飲み込む筋肉が衰えてくるので、唾液が誤って気管の方へ流れ込み、唾液中にある歯周病菌が気管に入りやすいといわれています。


中でも寝たきりの方ではその危険性が高いので、できるだけお口を清潔にして歯周病菌を減らす必要があります。

 



早産、低体重児の出産と関わっている!?

 

お子さまを産もうとしているお母さんに特に知っていただきたいのは、歯周病が赤ちゃんの健康に影響を及ぼすという恐ろしい危険性です。

近年、歯周病と早産(37週未満の出産)や低体重児(2,500g未満)の出産とが関連しているという報告が数多く出ています。
 

 

東京都内の総合病院で2000年夏、20代のA子さんが3人目のお子さんを出産。妊娠8ヶ月半での誕生で、上のお子さん2人も早産でした。


日本歯科大の鴨井久一教授がA子さんの承諾をとって破水の際に羊水を採取して調べたところ、通常プラークの中にいるはずの歯周病菌が見つかったのです。


お腹の赤ちゃんを包む大切な羊水のなかに、なぜ歯周病菌がいるのか?


A子さんは妊娠中、歯周病にかかっていました。

鴨井教授は「羊水の菌はプラークの中でも見つかった。菌は早産の引き金になった可能性がある」としています。

歯周病菌と早産、この一見無関係にみえる両者を結びつける仮説があります。

 

お口の中で繁殖した歯周病菌は、やがて血液で運ばれて羊水の中へ入ります。

免疫細胞は赤ちゃんを守るためにこの菌を攻撃しますが、その際に様々な活性物質が放出されるのです。

それらの物質の中には子宮内で羊水とともに胎児を羊膜を傷付けるものがあり、その結果早産につながるという考えです。

また、そうした活性物質の一つ、プロスタグランジンE2などは子宮の収縮を促がすとされ、それが陣痛を早めるという説もあります。

 

米国ノースカロライナ大学チームの研究では、歯周病のない妊婦の早産率は6%であるのに、歯周病があって妊娠中に悪化した妊婦ではなんと43%に跳ね上がったと報告しています。

 

つまり、歯周病のあるお母さんから生まれる子どもが早産・低体重児になるリスクは、お口の健康なお母さんと比較して約7倍!になるそうです。
 
妊娠中はつわりがあって歯磨きできなかったり、ホルモンのバランスの変化でハグキの炎症が悪化することがよくあります(妊娠性歯肉炎)。

でも上記の数値をみれば、できるだけ妊娠する前からお口の健康に意識することが赤ちゃんのためになることがわかりますね。

妊娠してから歯科治療するのはなかなか大変です。

となると、理想的には結婚前からかかりつけの歯医者で定期的にむし歯・歯周病のチェックやクリーニングを受けて、お口の健康を保つことでしょう。

 

元気な赤ちゃんを産むにはお母さんの健康が一番!ですね。




心筋梗塞を起こす!?

 

最近、歯周病の慢性的な炎症があると、健康なお口の人に比べて心臓疾患にかかるリスクが1.8~3倍になるといわれています。


これは、歯周病菌が血液から全身に回り、心臓の筋肉に酸素や栄養を送る冠状血管の壁に付き、血管の狭窄や塞栓を引き起こすことが原因とされています。

実際、命を脅かす病気である心筋梗塞や動脈瘤などでは、その病巣から歯周病の代表的な原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスが検出されたという報告があります。

このことは、歯周病菌は歯周病だけでなく心臓やその他の臓器の血管障害を引き起こす可能性を示しており、大げさなようですが、人間の生死に大きく関わっているといえるのです。

 



糖尿病やガンとも関わっている!?

 

これまで、糖尿病が歯周病の危険を高めることはよく知られていました。

糖尿病の患者さんは歯周病が悪化しやすく、なかなか直りにくいといわれています。

 

ところが逆に、歯周病が糖尿病の危険性を高める可能性が指摘されてきました。

歯周病を治療すると、糖尿病も改善するというのです。

 

これは、歯周病菌が血液に入ると、体を守るために血中の防御細胞がこの菌を攻撃しますが、その際に放出される活性物質が糖尿病を悪化させるためと考えられています。

さらに、ガンとの関連まで疑われる事例が報告されています。

 

国立がんセンターの調査で、食道ガンの細胞からトレポネーマ・デンティコーラという歯周病菌が高い割合で検出されたと報告されています。

 

食道ガンの細胞には複数の細菌がいるとみられていましたが、研究チームが患者20名のガン細胞を採取して、菌の種類を特定するためDNAを増幅して約2,000検体を分析したところ、トレポネーマ・デンティコーラが32%を占めたと報告されています。

 

この菌と食道ガンとの関連は今のところ不明ですが、同センター研究所分子腫瘍学部の佐々木室長によれば、口から食道粘膜に降りてきたトレポネーマによって炎症が起き、それが持続すると正常細胞のDNAが傷んで、最終的に発ガンに結びつくという可能性が考えられています。

 



歯周病、あなたはどうしますか?


以上のような報告を聞いていると、たかが歯周病といってあなどれない気持ちになりますね。

お口の中だけの病気と思っていた歯周病が、これほどまでに全身の疾患と関わっているとすれば、一人ひとりの口腔ケアが体の健康と密接につながっていることになります。

 

むし歯予防への関心に比べて歯周病への関心は近年ようやく高まってきたところです。

歯周病は成人過ぎるとほとんどどなたも程度の差こそあれかかる危険性の高い病気です。

 

むし歯でしみないからと言わず、年に1~2回はかかりつけの歯科医院でお口の健康チェックしてもらうのがベストです。

程度の軽いうちならご自分のハミガキなどで充分改善できるのも歯周病の特徴です。

 

さあ、歯周病、あなたはどうしますか?

 


2019年07月01日