あなたも歯科医院で働いてみませんか?

はじめに

皆さんは歯科医院で働く女性たちがどんな仕事をしているか、ご存知ですか?

きっと多くの方があまり意識した事はないでしょう。
受付で座っている人、診療のチェアーサイドで微笑んでいる人、先生の手伝いをしている人といった認識がほとんどではないでしょうか。

歯科医院で働く女性は、主に歯科衛生士と歯科助手に分けられます。
それぞれが歯科医師とともに患者さんをバックアップする大切な役割を担っています。

そこで今回は、「あなたも歯科医院で働いてみる?」として、歯科衛生士と歯科助手にスポットを当ててみました。
これを読んだら歯科医院にいる女性をみる目が変わるかも!?

今回の挿絵は、トピックスの内容が職場の「華」ということで「花」にしました

 



歯科衛生士と歯科助手ってどこが違うの?

「あれ、いいわよ!先生の横でニコニコして、たまに唾液を吸ってくれるヒト!」

ベテラン歯科衛生士まよちゃん(当時高校3年生)がこの道を選んだきっかけは、歯の治療に通っていたお母さんのこんな一言だったとか。

「横でニコニコしてるだけのヒトか…いいかも」

と、専門学校に進学するまで歯科衛生士の仕事を全く知らなかったそうです。

歯科医院で働く女性は、主に歯科衛生士と歯科助手(以下、衛生士と助手と表記します)に分けられます。
最近では男性もこの職につく方がいるそうですが、まだ直接お目にかかったことがありません。

また、大きな病院やちょっと近代的な歯科医院では「デンタルコーディネーター」や「デンタルカウンセラー」を配置するところもありますが、そう多くはありません。
ですから、ほとんどが衛生士と助手のどちらかと考えて間違いないでしょう。

衛生士と助手は、仕事の内容が法的に区別されています。

前者は専門学校等で学んだ後、国家試験に合格して与えられるライセンスを持った人で、後者はライセンスなしでもなれる職業です。

 

ちょっと難しく言うと、衛生士は診療補助・介助と事務介助ができ、助手は診療介助と事務介助ができます。
つまり、両者の違いは「診療補助」にあって、衛生士は患者さんのお口の中を改善するための手助けが直接でき、助手にはできません。

例えば、衛生士と助手のどちらも受付をしたり、患者さんにエプロンをかけて器具を準備することはできますが、歯科医師が「お口の歯石をお取りして」と頼めるのは衛生士だけです。

だからといって衛生士と助手のどちらかが「えらい!」わけではありません。

それは歯科医師が「えらい!」わけではないのと同じです。

 

どの職種も担当できる範囲が決まっているだけで、それぞれがプロとしてその場でどんな活躍をするかが大切です。

歯科衛生士と歯科助手の違いについて、この行為はしてもいい、してはいけない、と区別して書かれたものが多く、まるで助手はしてはいけないことだらけで、やっぱり「横でニコニコ笑っている」だけの誰にでもできる職業だとの勘違いされがちです。

 

誰にでもなれるけれど、誰にでもできるわけではありません。

そこで、衛生士と助手が関わる仕事の内容をご紹介して、この勘違いを打破したい!というのが今回の狙いです。


ちなみに、各種業務のとらえ方はおかもと歯科の考えです。

何を大切にするかはそれぞれの医院で異なることを付け加えます。



医院の「顔」でありながら、頭脳プレーヤー!

~受付業務~

患者さんが医院のドアを開けてまず目にするのはなんでしょう?
それは、受付にいるスタッフの柔らかい笑顔です。

まず耳にするのはなんでしょう?
それはさわやかな挨拶です。

そんなスタートで迎えられたら、憂鬱(ゆううつ)な診療もちょっと頑張る気になりませんか?

 

受付は医院の「顔」といわれるほど、その表情や声は患者さんの医院に対するイメージに大きく影響します。

一番大切な事は、単純なようですが笑顔と挨拶だと考えます。

といっても、どんな時でも余裕を持って笑顔と挨拶ができるのは並大抵のことではありません。
体調が悪ければそれだけで笑顔が苦しいでしょうし、何かしら失敗や嫌な思いをした後は気が滅入って声も出したくない感じ。

しかも、医院にいらっしゃるのはニコニコした患者さんばかりではありません。
痛みを訴えられる方、なにやら苦情で怒りが現れている方、ちょっとしつこい勧誘業者の方など、さまざまな場面に適切な笑顔を出せる、それはプロの仕事です。


患者さんが安心して治療を受ける気持ちになるための第一歩が受付にあります。

そして治療が終わり、ホッとして帰る時に見送ってくれる、やはり柔らかい笑顔とさわやかな挨拶。
文章で言えば「起承転結」の「起」と「結」を担うわけです。

人間はホッとして気持ちが緩んだ時に本音が顔を出すものです。

診療のチェアーに座っているときは緊張や恐怖で言いたい事がうまく表現できなかった方でも、受付で診療代を支払ってお財布をしまう頃には

「今日はもっと痛いかと思ってたのよね」

「あの薬のにおいがきつくて気分がね…」

などと、診療に関わる感想や苦情、疑問を伺う事ができます。

 

あるいは、

「1週間おきに来るのがいいのはわかるけど、実は主人が入院したもんだから…」

といった生活環境やお口の健康に対する意識など、さまざまな情報を受け取るチャンスです。

 

これらの情報をしっかりキャッチして医院の明日に役立てることは、受付スタッフならではの役割と言えます。

 



さて、医院の「顔」としての働きの影で、受付スタッフは待合室と診療室の両方に目を配り、患者さんの誘導をスムーズに行い、診療が滞らないように人知れず切り盛りしています。

この患者さんは予約が○○時だからどのくらいお待ちになっている、
この患者さんの治療は○○だから先にチェアーに入ってもらおう、
このお子さんはトイレが近いから声をかけておこう、
ついでにスリッパもそろえて、
あら、洗面所のティッシュが切れているから新しいのを出さなくちゃ、
などと目配り気配りが欠かせません。

しかも、次の予約をとるときには、治療内容とそれに要する時間をある程度把握しておかなければなりません。
でないと、院長が30分間つきっきりで治療する患者さんが、もう一人同じ時間に予約されている!なんてことに。

 

この治療は衛生士の○○さん担当だから院長は手が空いている、普段からこの時間帯は患者さんが少ないからいつでもいらっしゃれる方に予約してもらおうなど、スケジュールを上手に組み立てる能力が必要とされます。
予約管理は診療がスムーズに進むかどうかの大きなポイントです。

ベテランになると、数台のチェアーに座る患者さんの診療内容を把握して、歯科医師や衛生士を適切に配備する、そんなプロデューサー的な役割を担います。
患者数が多い医院ほどこのプロデューサーの手腕が問われるのです。

その他、声がすべての電話対応、間違ってはならない薬の使用法説明、ハブラシなどの販売物の管理や使用法の説明など、いずれもしっかりした理解とトレーニングなしにはできない仕事です。

しかも、やり直しがきかない一発勝負!
さまざまな場面で臨機応変に対応する柔軟さも必要です。

どうです、受付でただ微笑んでいるだけではないんですよ!



快適で気持ちいい診療空間に! 

~診療介助~

歯科医院の診療室に入ってチェアーに座ると、人によっては言いようのない不安や恐怖にかられることがあります。

特にチェアーに横たわるとお腹が仰向けで無防備、頭の上では何をされるのかさっぱり分からない。

ガチャガチャ音はすれども器具は見えないし先生の表情もわからない…。

まさにまな板の上の鯉になった気分。

そんな時、そっと横から
「今から歯を治療しますね」
「ちょっとお水が飛びますからタオルをかけましょう」
「痛いときは遠慮なく手をあげてください」
「キーンと響きますけれど、少しの間我慢してくださいね」
などとやさしく声を掛けられれば、気にしてくれている、痛いときは言っていいんだとと安心し少しがんばる気持ちになることでしょう。

 


診療介助というのは、治療の準備と片付け、バキュームで唾液を吸ったり器具を歯科医師に手渡すことはもちろん、チェアーに座る患者さんが今どんな状態かを常に意識して、出来るだけ快適な診療空間になるようサポートする役割です。

治療内容によって必要な器具をさっと準備してスムーズに渡せば、歯科医師は効率よく集中して治療に専念する事ができます。

その上で、患者さんは「大丈夫です」と言っていらっしゃるけど本当に痛みはないのか、恐怖心で青ざめていないか、血圧の高い方はご気分が悪くないか、他にも言いたい事があるのでは、などときめ細かい配慮をして、歯科医師には遠慮して伝えられない患者さんの気持ちをくみとることも大切な仕事です。

最近は、どの医療機関でも患者さんに納得して治療を受けてもらう事を大切に考え、病状や治療法について長く時間を取って説明するようになりました。

 

とはいっても、まだ日本では患者さんにとって歯科医師は「先生」であって、提示された治療法を「それでお願いします」「おまかせします」と了解するか、いくつかの案から選ぶのが精一杯。

患者さんの症状と希望、歯科医師が診た病状と治療の可能性を全てあわせて相談し、そこから治療法を決める対等な立場での話し合いには程遠く思われます。

原因のひとつは、患者さん自身の希望を聴く医師の時間が足りない事。
これを可能な限り補う事ができるのはチェアーサイドにいるスタッフです。

歯科医師が説明を終えたあと、患者さんの表情からなにかすっきりしないものを感じたら、それは気持ちの上で納得していないサインです。

そこで声を掛けられるのが診療介助のプロ!

タイトルを「快適で気持ちいい診療空間に!」としましたが、それは診療室がきれいでいいにおい、トイレもピカピカで雑誌は豊富、素敵なBGMが流れてスタッフが清潔で美人、その上歯科医師がハンサムでやさしい、ということばかりではありません。

(…これだけそろえば最高ですが…)

患者さんが「自分の気持ちを分かってもらえて気持ちいい」ことも大きな快適につながるのではないでしょうか。


なんとなく言いたい事がいえないままで治療が終わったら、きっとさわやかな気持ちで医院を後にする事はできません。


診療介助をするスタッフは、歯科医師だけではくみとる事のできない患者さんのニーズを引き出し、満足いく治療を受けていただくためのサポーターです。

チェアーサイドで微笑み「お水を吸いますね」とバキュームを操作するだけのお姉さんではないのです!



患者さんに一歩踏み込む!

~診療補助~

最後に、診療補助はライセンスを持った歯科衛生士の仕事で、歯科医療行為として患者さんに触れ、お口の健康をバックアップする役割です。

具体的には、お口の中に手を入れる行為(口腔内の診査、ブラッシングの指導や歯石除去、フッ素を塗ったりお口の中に詰めた充填物の研磨をするなど)や、治療に直接関わる患者さんの訴えを問診することができます。

 

 

さて、歯科医院でブラッシングの指導を受けた経験のある方は多いと思います。
その際、衛生士の説明を聞いて「しっかり磨かなくちゃ」とハミガキの大切さは理解しても、いざ実行となるとできなかったり、始めても長く続かないことはありませんか?

実は、ハミガキひとつをとっても、患者さん自身の習慣として身に付けていただくことはそう簡単ではありません。


わかりやすく歯垢と歯周病のかかわりを説明し、どうにか理解してもらえたとします(これもかなりの知識や技術がいりますが)。
ところが、人は頭では良いことだ、必要だと理解していも、気持ちが動かないと行動には移しません。

単純に言えば、ハミガキすることで「うれしい」気持ち(例:さっぱりする、息がくさくないetc.)と「うれしくない」気持ち(例:めんどくさい、時間がないetc.)がどなたにもあり、天秤にかけて「うれしくない」ほうが重ければハミガキはしないことを選ぶのです。


これは無意識に選択している事であり、ご本人にきいてもきっと「なぜだか続けられないんですよねえ」と返ってくるでしょう。

衛生士はこの無意識の選択で「うれしい」方を選んでもらえるように、お口の中だけでなく患者さんの生活環境、健康に対する価値観にまで踏み込んでいく必要がある、とても奥の深い仕事です。

そのためには、歯科に関わる知識を常に入手し、技術的な向上をはかることはもちろん、人とコミュニケーションをとるための技術や姿勢が求められます。

実はこの「コミュニケーション」については、衛生士に限らず歯科医師や医師、医療関係者すべてにとって大切でありながら、ライセンスをとる過程の教育現場ではほとんど見落とされてきました。

もともと自分の気持ちを積極的に表現しないことを美徳としてきた日本文化の中で、気持ちをわかってもらう喜び、わかってあげる喜びを十分味わう事なく私たちは成人しているのではないでしょうか。


だからこそ、気持ちのレベルまで受け止めた上でお口の健康増進をバックアップしていくためのトレーニングが必要とされています。

衛生士は歯科医師の指示の元で働く単なるアシスタントではありません。

 

歯科医院のスタッフと協力し、それぞれの患者さんに合ったサポート方法は何かを思考錯誤して見つけ出していく技術者であり開拓者です。


衛生士自身の人生経験も仕事に役立つ、奥の深い、息の長~い素敵な職業です。

 



終わりに

今回のトピックスはやけに文章が長くなりました。

最後までお付き合いいただき感謝します。

歯科衛生士と歯科助手は、どちらも誇りと責任をもって働くプロです。
そしてどの業務もやりがいのある仕事です。
しかも、長く働くほど、噛みしめるほどに味がでる、面白い職業です。

将来、歯科医院で働いてみようとお考えの若者諸君は、自分がどんな風に働いているかその姿をぜひ一度イメージして欲しいと思います。
このトピックスが少しでもその参考になればと期待しています。

歯科医院で働くスタッフはオーケストラを構成している演奏者のようなもの。
どのパートもそれぞれに大切な役割を担い、ひとりひとりが輝きながら調和のとれた演奏をすることで、素敵な曲が仕上がるのです。

おかもと歯科も、患者さんに「いい演奏しているなあ」と思っていただける歯科医院でありたいです。

素敵なハーモニーを奏でる医院を目指します!

 



2019年07月01日