ちょっと黒くなっているだけ?
ある患者さんが、今まで虫歯治療をほとんどしたことが無かったのに、1本の歯が痛み出して来院されました。
その奥歯は、外からの見た目では溝がスジ状に虫歯になっているなという程度なのに、レントゲンを撮影してみると歯の中は真っ黒に虫歯でやられていました。
結局、その歯は神経をとる治療を必要としました。
特に若い方では時々、見た目以上に進行した虫歯になっていることがあります。
ご本人はもちろん、親御さんも「えっ?神経まで取るんですか?小さい虫歯だと思っていたのに…(ガーン)」と驚かれます。
歯は、その構造上の特徴から、思いもかけない形で虫歯にやられていることがあるのです。
そこで今回のトピックスでは、奥歯の溝にできる虫歯に注目してみました。
歯の内部はどうなっている?
皆さんのお口の中に、「溝が黒くなっているな」と気付く程度の虫歯はありませんか?
思い当たる方は結構多いのではないでしょうか。
通常、全部そろうと28本(親知らずも入れると32本)ある歯は、それぞれが役割ごとに特徴的は形をしています。
でもその構造は一緒で、歯の頭の白い部分がエナメル質、次が象牙質、その中に歯の神経と血管が入った歯髄があります。
虫歯で大きく崩れていない限り、私たちが直接目にしているのは歯のエナメル質です。
さて、ヒトの体の中で一番硬いのはどこかご存知でしょうか?
実はこのエナメル質です。
虫歯とは、エナメル質が溶かされて歯が崩れていく病気です。
つまり、一番硬い歯の壁を通り抜けたら、次は柔らかい象牙質があるだけ。
イメージとしては、戦国時代にお城の頑丈な門を壊した敵がどっと場内へ攻め込んでくるようなものでしょうか。
エナメル質をやられたら、歯は陥落したも同然!?
虫歯はこのように、内部で拡がりやすい特徴をもっています。
特に若い方の象牙質は柔らかいので、ひとたびエナメル質が溶かされて象牙質に達すると、みるみる内部で虫歯が拡がり、歯髄までやられてしまうことがあります。
(歯は年をとると硬くなるので、高齢の方にはあまり見られません。)
エナメル質は入り口だけが壊され、内部の象牙質は大きく溶かされている場合、鏡で見ても虫歯がそれほど進んでいるとは気付きません。
痛み始めてようやく歯科医院を受診されます。
あるいは、お子さんの歯を毎日仕上げ磨きしているお母さんが、
「いつも見てたんですけど、急に歯に大きな穴が開いてしまったんです!」
というのは、虫歯が1日で大きくなったわけではありません。
歯の内部で虫歯が拡がっていて、あるとき取り残されたエナメル質の壁が割れたことで、その重症度を知るのです。
正直なところ、患者さんからの痛みの訴えがないと、歯科医師でも溝が黒くなっているだけの虫歯にしか見えないことがあります。
そこで活躍するのがレントゲン写真です。
「怪しいな」と思ったとき、歯科医師はレントゲン写真で内部の状態を診断することができます。
また、例えば右の奥歯でこのような気付きにくい虫歯が進んでいる場合、たいてい左の奥歯でも虫歯は同じように進行します。
ですから、まだ小さい虫歯であるとしても、早めに溝の部分を治療しましょうとご提案することになります。
溝の虫歯は早めにチェック!早めに治療!
さて、若い人ほど歯の内部で拡がりやすい虫歯、それを防ぐにはどうしたらよいでしょう。
ひとつは当然のことながら、しっかり溝の中までお掃除をすること。
しかし、歯の形は人それぞれで、ブラシの毛先が届かない狭く深い溝になっている場合があります。
下の写真は、歯の溝に赤い樹脂を流し込んだときの断面図です。
狭い溝が深くまで続いていることがわかります。
こんな形をしていては、いくら頑張って歯磨きしても、中まで汚れをとることは不可能です。
そこで、お掃除ができる範囲までの深さにするため、この赤い部分に歯の色をしたレジンやシーラントという材料を流し込む、予防的な治療を行います。
歯の溝が深い方や、少し色がつき始めた方には、早めの治療が肝心です。
ぜひ歯科医院でチェックしてもらってください。
終わりに
ご存知の方は少ないかもしれませんが、歯も年をとります。
生えたての若い歯と、使いこなした歯とでは、同じように見える溝の虫歯も危険度が異なります。
大人では
「放っておいてもそれほど進まないでしょうから、問題ないですよ」
と言える溝の色も、小学生さんでは
「ちょっと危ないから溝を埋めておいたほうがいいですよ」
となるわけです。
年齢に応じて歯やお口の健康を保つためのポイントが異なるのです。
ぜひ、かかりつけの歯科医院をもって、ご自身の歯にとって今どんな注意が必要なのか、アドバイスしてもらってください。