かわいいこどもの歯を守るには?(後編)


 

むし歯菌を減らし、酸で溶かされる時間を減らす!


前編で述べましたが、むし歯とは、ミュータンス菌酸を作り時間をかけて歯の表面を溶かすこと。

 

そこで、次の3つのキーワードをもとに、子どもの歯を守る手立てを考えました。

 「ミュータンス菌が」→①ミュータンス菌をやっつける! 

 

 「酸を作る」 

→②酸を作らせない!

 

 「時間をかけて歯の表面を溶かす」→③時間をかけさせず、歯を溶かさせない!

 

このうちの①②は単独で徹底するのは難しいことを前編でお話したところです。


実は、私たちができるむし歯予防対策は、①②そして③の組み合わせで行うことが効果的なのです。

 

むし歯を作る菌の数を減らし、歯を溶かす時間を与えないようにすること、そのポイントをご紹介します。



◆ポイント1:プラークを落とそう!

食べ物はむし歯菌のエネルギーですので、食後はむし歯菌が元気いっぱい酸を出そうとします。
でも、菌の数が少なければ、出される酸はほんの少量。
また、同じ酸の量でも、長~く歯についているのと、ついてすぐ洗い流されるのとでは歯の溶け方も違います。

食後のハミガキでは歯についたプラークを落とし、そこに住むむし歯菌の数を減らし、出される酸を洗い流しているのです。

もちろん、3度の食事のあと、毎回しっかりハミガキできればベスト。
でも現実には子どもも大人も忙しく、しかも幼稚園や学校に通っている子どものお口を毎回チェックすることはできません。

そこで、少なくとも1日1回、夕食後あるいは寝る前には時間をかけてゆっくりと丁寧にハミガキしてください。

寝ている間というのは口を動かすことがほとんどないので、プラーク中のむし歯菌にとっては活動しやすい時間帯。

寝る前にはプラークをすっきり落としましょう。

なお、歯みがきの仕方には誰でも癖があります。

きれいに磨きやすいところと磨きにくいところが必ずあるものです。
できるだけ小さめの歯ブラシで、やさしく丁寧にプラークを落としましょう。
歯ブラシの当て方や動かし方などとともに、自分の癖をチェックするためにぜひ歯科医院を活用してください。

当院では、丁寧に磨くなら大人でも小さめブラシをお勧めします。

こちは仕上げ磨きにベストなワンタフトブラシです。

 


 

◆ポイント2:よくかんで食べたらお口が自然ときれいになる!

食べ物がお口の中に入ると、プラーク中のむし歯菌にとってはエネルギー補給のうれしいひととき。

でも、食べ物をかむことによって食品が歯の表面をこするので、古いプラークは自然と歯面から落とされていきます。
特に繊維の多い食品をよくかむと効果は抜群!

例えば、朝食の後にりんごを食べると、何だか歯の表面がつるつるして感じられませんか?
これは、りんごが歯の表面についたプラークをこすり落としてくれた証拠です。

通常の食事でもよくかんで食べると、それまでついていた古いプラークが落とされるので、長く住みついていたむし歯菌にさよならできるのです。
食品が歯の表面をこすると同時にハグキのマッサージもしてプラスの効果です。

そして、よくかんで食べることの利点がもうひとつ。

むし歯菌はでんぷんや砂糖などをもとに酸を作り歯を溶かしますが、お口の中には唾液というすばらしいシャワーがあって、歯が溶け出さないレベルまで酸を徐々に中和してくれます。

この唾液のシャワーがたくさんあれば、歯が溶かされる時間が短くて済みます。
また、唾液の性質がよくて中和のスピードが早いと、むし歯になりにくいわけです。
(唾液の量を分泌量、唾液の質を緩衝能と言います。)

では、どうしたらよい唾液をたくさん出せるでしょう。


唾液は唾液腺という器官から作り出されます。
お口の筋肉のそばには数ヶ所の唾液腺があり、筋肉が動く刺激で唾液が分泌されます。


ですから、よくかんでお口の筋肉を動かすほど唾液はたくさん出てきます。

(黄色い部分が様々な唾液腺です)




食事中に水を飲むのはいいこと? 悪いこと?

 

さて、突然ですが、あなたは食事中にお水やお茶を飲みますか?

アンケートをとると、食事中に水などをコップ1~3杯程度飲むというお子さんが増えています。

多い時には1リットル飲むというお子さんもいるので驚きです。

昔は食事中に水を出す習慣はなく、最後にお茶というのが一般的なマナーでした。
ところが現代では、外食をするとまずコップにお水が出されることがほとんど。
大人も水を飲みながら食事する人が増えています。

「食事中に水を飲めば、お口の中を洗い流してきれいになるのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
でもちょっと違うのです。

本来、食べ物はお口の中でよくかんで小さく砕いたりすりつぶしたりしながら唾液と混ぜ合わせ、飲み込める性状になったところでゴックンとします。


ところが、食べながら水を飲むと、あまりかまなくても食品が水で流し込まれて飲み込めるのです。
これを繰り返すと、食事の際に水を飲みながら食べる習慣ができます。

現代はあまりかまなくてもいい軟らかめの食品が増えています。
その上に水で流し込んだらますますかむ回数は減ります。

すると、食品(特に食物繊維)が歯の表面をこすってプラ-クを落とす効果は減り、しかもかむ刺激が少ないことで唾液もあまり出ません。


お口の中が自然ときれいになる作用(自浄作用)が低下してしまうのです。

さらに困ったことに、お口の中がいつも水で潤っていると、唾液腺は「唾液を出さなくてもいいんだな」と働かなくなります。


発育期のお子さんが食事中に水を飲む習慣を続ければ、発育すべき唾液腺が未熟なままとなり、将来お口の中が乾燥しやすい状態になる恐れがあります。

唾液の中にはお口の健康に関わる成分だけでなく、消化酵素など体全体の健康に関わる成分もたくさん含まれています。


唾液は、分泌が悪くなれば様々なトラブルを生じる元になりかねない、大切なものです。


ですから、食事中に水を飲まない、流し込む食べ方をしないということを心に留めておいて欲しいのです。

たくさんかむことで顔の筋肉はよく動いて発育し、歯とハグキが健康になり、胃腸にもやさしい食生活がおくれます。
今夜の食事から、コップで水を出さない習慣にトライしてみましょう。


もしお子さんが「水がないと食べられないよー」と訴えるなら、これはもう危険信号!
お子さんにもかむことの大切さをよく話して、水なしで食べられるように練習してくださいね。



◆ポイント3:むし歯菌にダラダラとエネルギーをあげるのやめよう!

 

むし歯予防という点から、最近ではお母さんやおばあちゃんがおやつに結構気を配っていらっしゃいます。

砂糖のたっぷり入っているケーキやチョコレートは避けています、という方は多いでしょう。

 

でも歯によいおやつ、悪いおやつと聞かれてはっきりと答えられる方はそういません。

砂糖を多く含み、歯の表面にくっつきやすい食品は控えたほうが安全なのは確かです。

 

ただし、どの食品も食べてはいけないというわけではありません。

むし歯菌に長々とエネルギーを与えないように、ダラダラではなく食べる時間を決めて適量を食べましょう。

 

なお、間食の回数が多いほどむし歯になりやすいことが知られています。

それは、歯がむし歯菌の出す酸に溶かされる時間が長くなるからです。

 

おやつ選びとともに、与える回数にも注意しましょう。

子どものポケットにいつもお菓子が入っている、なんていうのは幸せなことではありません。

我慢させることも大切なしつけですよね。

 


 

飲み物も歯を溶かす!

 

さて、おやつには気を使っていても、意外と飲み物のむし歯リスクは知られていません。

飲み物の中に糖分が含まれていれば、むし歯菌にとってエネルギーになるので酸を作り出し歯を溶かします。

ところが、菌とは関係なく歯を溶かす危険性もあります。

飲み物の中には、それ自体が歯を溶かすことが可能なほど酸性のものがあるからです。

 

歯の表面が溶け出しはじめるpHは約5.5ですが、下の表にあるようにさまざまな飲料水のpHがそれより酸性なので、むし歯菌なしでも直接歯を溶かすことが可能なのです。


例えば、市販される飲み物の飲んだ直後の歯面のpHは、つぎのとおり。

市販される飲み物 歯面のpH
コカコーラ 3.11
トロピカーナ100%ジュース(アップル) 4.15
サントリーなっちゃんアップル(20%) 3.67
カゴメ100%野菜(トマトと8種類の野菜) 4.55
ヤクルト200 3.65
ポカリスエット 3.60


pHが小さいほど酸性度が高いことを表します。
身近な飲み物も、歯が溶け出すpH5.5以下であることがわかります。
(衛生学・口腔衛生学選択テーマ実習研究報告書、2000年より)

 

よく小さなお子さんが哺乳瓶に水以外の飲料水を入れていつでも飲めるようにしていることがありますが、下の写真のような特徴的なむし歯(哺乳瓶カリエス)になることが多いのでたいへん危険です。

最近では小中学生でもペットボトルを持ち歩いて飲むので、同じように広範囲のむし歯を作っていることがあります。

いかにもむし歯になりそうな甘いジュースだけでなく、イオン飲料や100%果汁もむし歯の危険性を持っています。

むしろ健康的とみなされているものが、酸性飲料だと意識されないまま、歯を溶かすのです。

おやつと同様に、飲み物もダラダラではなく時間を決めて適量飲みましょう。

哺乳瓶カリエスの例。

歯の表面が広く溶けています。




溶かされてなるものか!

さて、今度は歯を守るために歯科医院がお手伝いできることをお話しましょう。

まず、お子さんの歯の質を強くするためにはフッ素塗布という方法があります。
鹿児島市では2歳と2歳半のお子さんに市から補助が出ているので、歯科医院で歯の健診とともにフッ素塗布する方が多いと思います。

歯は生え初めてからの1~2年間が最もむし歯になりやすい時期なので、このころ定期的にフッ素を塗ることで歯の表面を強くして予防します。

ただし、トピックスで取り上げていますが、フッ素には歯を強くする利点とともに体に対する害も報告されています。
歯の質が弱くてむし歯になりやすいお子さんにはお勧めしますが、むし歯のないお子さんには利点が少ないかもしれません。
歯科医と相談されて塗布を決めましょう。

現在、市販の歯みがき剤のほとんどにフッ素が配合されています。
大人は歯みがき剤をきちんと吐き出すことができるので問題ありませんが、6歳以下のお子さんは飲み込んでしまうので注意が必要です。
毎日使えば少量でも体に積もり積もって影響が出る恐れがあります。
フッ素推進国のアメリカなどでさえ、フッ素入りの歯みがき剤のパッケージに「6歳以下には使用しない」と記載されているそうです。

むし歯リスクの高い幼いお子さんに使用するときは、飲み込みができるだけ少なくなるように注意してお使いください。




溝を守るシーラント


次に、歯の溝部分をむし歯から守る手立てとしてシーラントがあります。

歯の形はひとそれぞれ異なり、中には溝の部分が深くて歯ブラシが届かず、お母さんがちゃんと歯みがきしているのに溝がすべてむし歯ということがあります。


このような深い溝をもつ歯の場合、フッ素を塗っても溝の中まで強くする効果は少ないと言われています。

そこで、溝部分をシーラント(もしくはレジン)というプラスチックに似た材料で埋めて、プラークが溜まるのを防ぎます。


シーラントは歯が生え始めたら早めに行ったほうが効果的ですので、乳歯、永久歯ともに生え始めたら歯科医院でチェックしてもらいましょう。

写真は、ブラシの毛が届かない深い溝を、赤いシーラントで埋めているところ。

 


 

…むし歯ができちゃったら?
 
ここまでいろいろなむし歯予防対策をお話しましたが、それでもむし歯ができちゃった、ということがあるでしょう。

子どものむし歯は痛みをあまり感じない上に進行が早いので、気づいたときには重症となっていることが多々あります。

少なくとも半年に1度はお口の健康チェックを行い、むし歯があれば早めに治療するのがベスト。
お子さんにとっても、小さなむし歯のうちの治療は負担が軽くて済みます。

特に乳歯は、生え変わるから大丈夫と放っておくと永久歯の色や形、生え方に影響することがありますので気をつけましょう。



最後に

大切なお子さんの歯を守りたい気持ちで最後まで目を通していただき、ありがとうございます。

日本では3歳児の約3割にむし歯があり、世界的にみると多いそうです。

様々なむし歯予防策がありますが、おうちでできることと歯科医がお手伝いすることとを合わせて、できるだけむし歯を減らしたいものです。

むし歯は菌の感染症が原因なので、将来はワクチンが開発されてむし歯が根絶されるなどと夢のような話も聞きますが、まだまだ先のことでしょう。
特効薬が開発されるまでは地道に戦うしかないようです。

かわいいお子さんの歯を守るため、力を合わせてがんばりましょう!

 


2019年07月01日