歯が溶けだす?
ヒトの体の中で一番硬いといわれる歯。
生えてからずっと変化がないように見えますが、そうではありません。
実は、お口の中で歯のミネラル分(おもにカルシウムとリン酸)は溶け出したり、取り込まれたり、常に変化しています。
この溶けだしと取り込みのバランスを決定するのは、お口の中のpH(ペーハー)です。
ご存知の通り、pHは7を中性として、小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性を示します。
歯が溶けだすのは酸性にあるときで、溶けだしが起こる「臨界pH」は約5.5といわれています。
つまり、pH5.5より酸性度が強い環境にあると、歯のミネラル分はずっと溶けだし続けるというわけです。
ちなみに、この溶けだしと取り込みのことを、歯科用語で「脱灰」と「再石灰化」といいます。
「う蝕(虫歯)」と呼ばれる歯の病気は、虫歯菌が作り出す酸で歯が溶けて崩れることです。
でも、初期のう蝕であれば、再石灰化することで健康な歯に戻ることができます。
歯にとって大切なミネラルが、歯質に行ったり来たりしているのです。
酸性食品って?
上述しましたが、「う蝕(虫歯)」と呼ばれる歯の病気は、虫歯菌が作り出す酸で歯が溶けて崩れることです。
酸はミネラルの溶けだしバランスを大きくするので、長く続けば歯が柔らかくもろい状態になります。
さて、皆さんは「酸性食品」ということばをお聞きになったことがありますか?
お口に入れる様々な食品や飲料は、それぞれが独自のpHを持っています。
この酸性度が強いと、虫歯の出す酸と同じで、歯のミネラル溶けだしバランスが大きくなります。
つまり、虫歯の菌がいなくても、「酸性食品」がお口の中にずっと留まれば、歯は溶けて崩れていくのです!
それでは、どんなものが「酸性食品」なのでしょう?
カラダによいといわれているフルーツ、ワイン、酢。
運動などで汗をかいた後に飲む、スポーツ飲料。
これらはほとんどが歯を溶かすのに充分な強い酸性を示します。(下図参照)
食べ物のなかには、かなりの量の"酸"が含まれています。
東京医科歯科大学の北迫勇一先生らの研究によると市販の飲料の73%が歯を溶かす臨界pH5.5以上の酸性を示したそうです。
<酸を多く含む食べ物・飲み物>
出典: 第21回 日本歯科医学総会 2008年11月14日 T003 「pHでみるカリエスリスク」
(東京医科歯科大学大学院う蝕制御学分野 北迫勇一、 志田嘉奈子、 藤井美穂 、田上順次)
酸蝕歯って?
柑橘類などのフルーツやワイン、果汁、炭酸飲料、スポーツドリンクなど飲料、ビタミンCなどの顆粒や液体のサプリメント、うがい薬など、酸性のものを常用して歯のミネラルが溶け出し、弱く柔らかくなった歯がかみ合せたり歯ブラシによってすり減った状態のことを「酸蝕歯」といいます。
逆流性食道炎のある方、しばしば嘔吐する方などは、胃酸によっても歯が溶かされる場合があります。
ごくごく身近に歯が溶けだす要因があるんですね。
ある小学校の保健の先生から、歯が溶ける状態を人工的に作りたい、とご相談を受けたことがあります。
このとき用意するのは、歯周病などで抜いた本物の歯と、オレンジジュースかスポーツドリンク(ポカリなど)。
1~3日間、歯をジュース類に浸けておくだけで、硬いはずの歯の表面は白く柔らかくなり、爪で傷がつけられるくらいになります。
これはオレンジジュースやスポーツドリンクのpHが3.5前後のやや強い酸性だからです。
子どもたちには「ジュースで歯が溶ける!」とインパクトが大きいことでしょう。
本当にお口の中でもこれと同じ状態が起こりうるのです!
どんな習慣が危ないの?
普段口にする食べ物や飲み物、カラダによいとされているものが、実は歯には悪いなんて、びっくりしてしまった方も多いのではないでしょうか?
酸蝕歯は、酸性のものを常用して歯のミネラルが溶け出し弱く柔らかくなった歯が、かみ合せや歯ブラシの力によってすり減った状態のことです。
次のような習慣がある方は、要注意です!
●炭酸飲料をよく飲む
●スポーツドリンクを水分補給のためによく飲む
●果汁飲料をよく飲む
●レモンや柑橘類を水に溶かして水分補給としてよく飲む
●梅干しや酢漬けの食品などを食事以外の時、特に就寝前などに食べる
●マヨネーズ、ドレッシング等をよく使う
●柑橘類、キューイなどフルーツをよく食べる
●健康のために黒酢の入った食品や飲料を定期的に摂取する
●健康のために野菜ジュースや健康飲料を定期的に飲む
●美容のためや健康のために液体、粉状、顆粒状のサプリメントを定期的に摂取している
●ワイン、ビール、チューハイなどお酒をほとんど毎日、特に寝る前に飲む
上記の習慣がある方で、固い歯ブラシを使って力を入れてゴシゴシとブラッシングをしている、噛み応えのあるするめやさきイカなどをよく食べる、夜間に歯ぎしりをするという方は特に要注意!
酸性食品を摂取して歯が柔らかくなった状態では、歯が削れやすくなっています。
もしかすると、むし歯かと思っていたら、実は酸蝕歯だったなんてことも十分にありえます。
ぜひ一度、食習慣をチェックしてみましょう。
酸蝕歯を防ぐには?
酸蝕歯は、皆さんが日常生活で少し気をつけることで十分防げます。
そのポイントは次のとおりです。
(1)酸性の食品や飲み物を減らす
水分補給で炭酸飲料やスポーツドリンクをだらだら飲まない。
ミネラルウォーターやお茶などに切り替えてみましょう。
(2)強い酸性の食べ物や飲料を摂取した後は、すぐに歯を磨かない
酸性の食べ物や飲料を摂取すると、直後に歯の主成分であるカルシウムやリンが溶けだします。
摂取後すぐに歯ブラシで磨けば柔らかくなった歯がすり減ってしまいますので、歯磨きをあわてなくても大丈夫。
通常は、食品を摂取してから30分くらいかけて、ゆっくり唾液がお口の環境を中性に戻してくれるといわれています。
すぐ磨きたいなら、早めに水でうがいをしておきましょう。
(3)特に夕食後に酸性の飲み物や食べ物をとらない
寝酒などは要注意です。
寝ている間は唾液の分泌量が減りますので、酸性になったお口の環境が中性にもどるまでに時間がかかります。
食後に飲み物・食べ物を摂った後はそのままにせず、せめて水でうがいだけでもしてから寝ましょう。
(4)リカルデントガム、ポスカムガムなどのミネラル補給可能なガムを噛む
これらのガムにはカルシウムやリンが再石灰化し易い形で含まれており、酸性食品で柔らかくなった歯にミネラルを供給します。
もちろん、虫歯の菌が利用しにくい糖分であるキシリトール入りがベスト。
さらに、ガムを噛むと唾液が増え、お口の中の環境を早く自然なpH(ペーハー)バランスに戻すことができます。
唾液にはミネラルが含まれていますので、再石灰化の促進も期待できます。
(5)酸蝕歯に考慮した歯磨き剤を利用する
よく酸性食品を口にするかたは、酸蝕歯を考慮した歯磨き剤が販売されていますのでぜひご利用ください。
酸性食品で柔らかくなった歯にミネラルを供給し、歯の再石灰化を促進します。
ミネラルを歯に運ぶ働きのフッ素も配合されていれば、さらに安心です。
(6)硬すぎる歯ブラシで磨かない
酸によってやわらかくなったエナメル質は、硬すぎる歯ブラシでこすると削られてしまい、酸蝕歯を進行させることになります。
やわらかい毛の歯ブラシを使って、すみずみまでていねいに磨きましょう。
(7)お酒を飲むとき、「するめ」や「さきいか」などの硬いつまみはとらない
酸でエナメル質が弱くなったところに、硬いものをこすりつけてしまうと、余計に歯が削れてしまいます。
歯のことを考えると、柔らかいおつまみがいいでしょう。
酸蝕歯の症状が進むと、次のようなことが現れます。
●熱い飲み物や冷たい飲み物を飲んだときにしみる(知覚過敏の症状)
●歯の表面がなんとなく丸みをおびて見える
●歯が黄色っぽく見える(歯が薄くなって、すぐ下の象牙質が透けて見えるため)
●歯の先端が透けて見える
●歯の表面に小さいくぼみが現れたり、歯の山がくぼんでくる
●昔の詰め物がいきなりとれてしまう
もし思い当たる症状がある方は、一度歯科医院を受診してご相談になってみてください。