育児中のお母さん、お父さんから寄せられる質問の中で多いのは指しゃぶりについてです。
いつまでしてもいいの?止めさせる方法は?などと疑問に思っても、育児書には「歯が生えたらやめましょう」、「歯科医院で相談しましょう」などと漠然とした答えしか書いていないので、実際はどうしたらよいのかわからない場合がほとんどのようです。
育児の常識というのは時代の流れとともに新たな発見やものの見方によって大きく変わることがあり、指しゃぶりについてもこれから述べることが絶対ではないでしょう。
でも、実際に指しゃぶりの子どもを育てながら得た体験に基づくアドバイスとして、指しゃぶりの受け止め方をお話したいと思います。
(このページは2児の母、副院長 岡本千春が作成しています)
指しゃぶりの意味
お子さんの指しゃぶりは多くのお父さん、お母さんが悩む癖のひとつ。
でも、ご存知かもしれませんが、指しゃぶりは赤ちゃんがお腹の中にいるときからしていることが明らかとなっています。
何かをお口に入れてしゃぶるのは、お母さんのオッパイを口にしている感覚を再現して安心を得るための、一種の自己防衛のようなもの。
寂しいときや甘えたいとき、なんとなく安心したい、満足したいという願望を手軽に満たしてくれるのが指しゃぶりなのです。(おしゃぶりも同じです)
実際に多くのお子さんは、眠いとき、寂しいとき、退屈しているときなどに指しゃぶりをすることから、心の安定剤の役割を果たしていると考えられています。
ですから、お子さん自身の納得なしに「指しゃぶりしちゃダメよ!」と止められると、違った形でストレスを解消しようとして、別の癖(例えば唇を噛んだり、爪を噛んだり、髪を引っ張ったり)が現れるといわれています。
お子さんが指しゃぶりしていたら、まずは何か退屈かな?眠たいかな?寂しいかな?と心情を考えてあげるきっかけとしてとらえるとよいのではないでしょうか。
なお、生後間もない赤ちゃんでも、指にタコができるほどの指しゃぶりをすることがあります。
赤ちゃんはお母さんのオッパイを吸っているというより、モグモグ食べています。
母乳の場合はオッパイが出なくても好きなだけモグモグしていられますので、噛むことによって赤ちゃんは満足が得られます。
でも、哺乳瓶の乳首はこれまで吸うことでミルクが出るように作られていたので、噛む事を必要としない飲み方になっていました。
最近では噛んでミルクが出るような弁状の乳首も販売されるようになり(ビーンスタークなど)オッパイに近い飲み方になりましたが、どうしてもミルクがなくなると哺乳瓶をはなしてしまうので、赤ちゃんにとっては噛むことの満足感が得られない場合があるようです。
赤ちゃんの指しゃぶりを見たら、もっとオッパイモグモグしたいかな?何か楽しいことがしたいのかな?などと、指しゃぶりも一つの意思表示と思ってお子さんを見つめてあげてはいかがでしょうか。
指しゃぶりしすぎのサイン
少々の指しゃぶりがあっても、それが短時間なら問題はほとんどありません。
では、止めたほうがいいほどの指しゃぶりとは、どんな場合でしょうか。
それは、歯並びやアゴの形に悪影響を及ぼす可能性がある場合です。
長い時間指しゃぶりを続けていると、前歯がかみ合わさらないばかりか、上あごの骨の形自体も変形してきます。
写真のように前歯にちょうど指が入る形の大きな隙間ができているようなら要注意。
できるだけ指しゃぶりを止めるか、少なくする必要があります。
また、しゃぶる指にタコができたり、爪が変形している場合はそれだけ指しゃぶりの時間が長いことを示していますので、注意が必要です。
下の写真では親指の付け根にタコができて硬くなっています。
指しゃぶりを止める時期・方法は?
指しゃぶりは一種の精神安定剤ですので、本人が止める必要性を感じていないのに急に奪われたら、お子さんにとっては非常に不安でストレスがたまることでしょう。
ですから、指しゃぶりを止めるためにまず必要なのは、本人が自覚して止めようとする気持ちです。
その意味で、止める時期としては早くて2~3歳以降が適当と考えています。
基本的には、永久歯の生え変わる6歳を過ぎても指しゃぶりが続いていると歯並びやアゴの形に影響する可能性が高いため、小学生になる頃までにはやめた方がよいでしょう。
なお、乳歯期の指しゃぶりで少々前歯が噛みあわさない状態(開咬)になっていても、永久歯で必ず不正咬合になるわけではありません。
前歯の生え変わる時期(6歳ごろ)に終了していれば自然と永久歯では前歯がかみ合ってきます。
当院では、乳歯期の指しゃぶりは程度のひどい開咬のときのみ少し早めにトレーニングを開始します。これは、前歯が噛み合わさらないと発音に支障がでるからです。
ただし、これは強制的にではなく、あくまでも本人の自覚がベースのトレーニングです。
指しゃぶりによって自分の歯並びがどんな状態になっているかを理解し、自らがやめようと思うように促がして、必要があれば道具や装置を使って専門化が手助けするというのが理想的です。
体験談
さて、これまで指しゃぶりについての考え方を述べてきましたが、実は我が家でも長男の指しゃぶりについてしばらく前までどうしたものかと悩んでいました。
長男(当時4歳)は1歳になる前から指しゃぶりがはじまり、寝付くときに指で満足するためか卒乳も早かったです。
ところが2歳すぎてもちょっとさみしいとき、ヒマなとき、テレビを見ているとき、そして寝付くときには必ず指しゃぶり。決まって左親指を吸うのでタコができていました。
私は歯並びの矯正を専門としているため、この指しゃぶりはいったいどう扱えばいいものかと悩みました。
幸い歯並びは正常咬合だったので、本人の自覚ができるまではあまり無理やりやめさせないように、と考えました。
とはいっても、目の前で頻繁に指しゃぶりしているとつい「止めなさい」と言いたくなり、それを我慢するもどかしい日々でした。
3歳の誕生日前頃から「指にタコちゃんができちゃったね、おかしいね」などと、指しゃぶりをしていることに気づかせ、自ら「3歳になったらやめるんだもーん」と言うまでにいたりました。
ところが、やはりなかなか習慣は抜けません。
3歳を過ぎても指しゃぶりは続き、ついに爪が二枚にはがれてきました。
これには本人も驚き、恐怖心が芽生えたのでしょう、少なくとも意識できるあいだは指しゃぶりしなくなり、爪が日に日に再生していくのを見て安心したようです。
親や祖父母も、爪の再生を「よかったね、治ってきたね。指ちゅぷちゅぷ我慢したんだ、えらいね。」と誉めました。
保育園に通っているので、お友達が指しゃぶりしていると「おかしいよね」などといい、それが自分への自覚を促がしてもいたのでしょう。今では日中は全くしなくなりました。
夜中、眠りが浅いときにはまだ指しゃぶりしているので、指のタコは少々残っています。
でも、日中はしないので歯並びには全く影響がありません。
最近は、寝ながら小さな音をたてて指しゃぶりする姿を見ると、安心を求めて「ママ-」と叫びたいところをがんばって堪えているかのようで、かえってけなげに思えます。
いつか指しゃぶりも必要としなくなる日が来るのでしょう。
それはひとつの親離れ、ひとりで歩いていける成長の証ともいえます。
私は矯正歯科の知識からだけでなく、我が子からの経験で指しゃぶりの受け止め方を考える機会ができて幸いでした。
子どもが安心を求めているサインとして受け止めて、慌てずあせらず寄り添って見てあげる、そしていつか本人が自分に必要ないと判断できれば止められる、それが指しゃぶりだと思います。
終わりに
指しゃぶりについてはいままで「6歳頃までにはやめたほうがいい」といわれていましたが、どう止めるかについてはほとんど知らされていませんでした。
矯正治療としても止めるために使う装置が紹介されている程度でした。
けれど、自分が我が子で体験することによって、止めるのは子ども自身であること、それを周りがバックアップするという姿勢でよいのだと確信できました。
我が家の場合は幸い(?)爪の変形で指しゃぶりを自覚しました。
どのお子さんも何らかの形で指しゃぶりがおかしいことだと自覚できれば、それほど周りが言わなくても自然とやめられるでしょう。
逆に周りからあまり強く指摘されると本人が落ち込んでしまいます。
できるだけ指しゃぶりが減ったら誉めることでやる気をおこさせてあげるとうまくいくのではないでしょうか。
育児の悩みは尽きないものですが、やはり子供の行動には何らかの理由があるはず。
あまり慌てず、ゆっくりと気長に寄り添い付き合ってあげたいと思います。
イライラ、やきもきすることはたくさんありますが、皆さんお互いにがんばりましょうね!
【追記】
平成15年10月、商品のご注文をいただいた方から、指しゃぶりや爪かみ防止用のマニキュア「バイターストップ」というものをご紹介いただきました。
噛むと苦味や渋みがあるので、効果的とのこと。
通販でも取扱いがあり、およそ1200円で販売されていました。
お子さんにお使いになるときは、本人にやめようという意思が確認できたときからが勧めです。
また、子どもさんだけでなく、ひそかに指しゃぶりや爪噛み、皮噛みでお悩みの大人の方もお試しいただくとよい商品のようです。
S様、ご紹介ありがとうございました。