赤ちゃんをお持ちの方や、赤ちゃんに関わる方々なら、必ず一度はおっぱいについて考えたことがあるでしょう。
近年、様々な観点から母乳育児の大切さを訴える声があがっています。
夫婦が共働きであれば母乳育児が難しいことも確かですが、おっぱいの価値をもう一度見直して、せっかく機能するおっぱいを安易に捨てないで欲しいと思い、このトピックスを書くことにしました。
担当は、恥ずかしげもなくおっぱいと連呼できる2児の母、副院長ちはるです。
ご覧になった方はぜひご感想をお寄せください。
おっぱいのメリット
赤ちゃんの命がお腹の中に芽生えると、女性の体は自分の意志とは全く無関係に変化していきます。
その最たるものがおっぱいでしょう。
それまで張りのあるやや固めの肉質だったものが、産後は血管が透けて見えるほどパンパンに張って、赤ちゃんが飲むほどにほぐれて柔らかく変化します。
まさにそれがお乳の製造工場完成の過程です。
おっぱい(母乳)のメリットとしては、次のようなことがいわれています。
1)スキンシップによって情緒を育み、安心や満足を感じる!
お母さんに抱かれて一生懸命温かいおっぱいを飲むことで、赤ちゃんはお母さんのぬくもりを感じて安心感や満足感を得ています。
お乳がほとんど出ないおっぱいでも吸い付いていつまでも離さないのは、乳首を頬張ってお口を動かすこと自体が安心や満足に通じるからだと考えられています。
哺乳瓶でミルクを与える場合には、どうしてもミルクを飲み終わったらおしまいになるので、心ゆくまでお口を動かすというわけにはいきません。
1歳過ぎのお子さんで、ご飯を食べられるのでお乳は必要ないのに卒乳しなかったり、指しゃぶりやおしゃぶりをよく口にするのは、退屈したときや不安なとき(特に寝付くとき)に安心や満足を求めての行動といえます。
2)お乳は完全食品である!
母乳には、成長に必要な乳糖、脂肪、たんぱく質をはじめ、カルシウム、ビタミン、ミネラルなど、赤ちゃんがすくすく育つための栄養素が過不足なく含まれています。
しかもそれらは赤ちゃんに吸収しやすいカタチになっているので、無理なく消化吸収できます。
消化しにくい脂肪についても、母乳の中に含まれる酵素(リパーゼ)が消化を助けるといわれています。
3)丈夫なからだをつくる免疫物質が豊富!
よく、母乳育ちの赤ちゃんは病気になりにくいといわれます。
それは、細菌やウイルスが体内に侵入して病気になるのを防ぐ、IgA(免疫グロブリン)という免疫物質が含まれているためです。
また、腸内の良い細菌を育てるビフィズス因子や、殺菌作用をもつラクトフェリン、リゾチーム、白血球など、身体を守る物質がたくさん含まれています。
4)いつでも飲める!
おっぱいならいつでもどこでも赤ちゃんが欲したときにすぐ与えることができます。
赤ちゃんが待たずに済むことはもちろん、お母さんもわざわざミルクを作る手間がかからないので、とっても楽!ちょっとぐずって泣いたときでも、さっとおっぱいで安心させてあげられます。
お出掛けの際も哺乳瓶やミルクの粉、お湯等を準備する必要がなくて、とっても身軽です。
おっぱいとお口の健康
おっぱいがお口の健康に重要な役割を果たしていることは、案外まだ知られていません。
私が受けた産婦人科での哺乳指導の際も、お口の健康との関わりについては話を聞きませんでした(他の病院や助産院ではいかがでしょう)。
赤ちゃんは、舌とアゴと口のまわりの筋肉を一生懸命使ってお母さんのおっぱいを飲みます。
これは赤ちゃんがもって生まれた哺乳反射によるもので、乳首をかんだり、ストローで飲み物を吸う口の動きとはまるで違います。
おっぱいを飲ませた経験のある方はおわかりになるでしょうが、赤ちゃんはおっぱいを飲むというよりもぐもぐ噛んで食べるようにお口を動かしています。
この筋肉の運動が、将来食べ物を噛んで飲み込む咀嚼(そしゃく)の力を育てるのに大切なのです。
また、お口や顔の筋肉は動かすことで発達するのはもちろん、その刺激で唾を出す唾液腺やアゴの骨などが発育していきます。
さて、私がかつて所属していた鹿児島大学歯学部矯正学講座では、噛むこととアゴの発達との関わりについてをテーマに、様々な研究が行われていました。
その中で、赤ちゃんがおっぱいを飲むことは噛むことに通じ、それがアゴの発育に影響するのではという仮説が立てられ、おっぱいで育った赤ちゃんと人工哺乳で育った赤ちゃんのアゴの大きさや形を比較する研究が行われました。
なんとそれは、手にのるほど小さなマウスで実験されました。
お母さんマウスのおっぱいから母乳を絞りとって、赤ちゃんに小さなスポイトで与えるのです。
米粒より小さなおっぱいから搾乳していたそうです。すごい作業です。
そうやってお母さんのおっぱいと人工哺乳で育てたマウスを比べると、人工哺乳のみのマウスではアゴの骨と筋肉の発育が悪いことが明らかとなりました(1988年、大迫ら)。
つまり人でいえば、おっぱいと哺乳瓶のどちらで育つかによってアゴの発達に違いが出るということです。
この実験から、赤ちゃんにとっておっぱいを飲むことはお口の発育にも大切な役割を果たすことが確かめられました。
逆にいえば、お口の筋肉をあまり使わずに飲める哺乳瓶で育った赤ちゃんは、将来咀嚼が苦手になったり、アゴの骨や筋肉の発育が損なわれる可能性があるといえます。
噛む筋肉は頭や首、肩の筋肉とつながっていますので、その影響は計り知れません。
現代のお子さんに見られる細い顔の骨格、歯並びのでこぼこ、噛むとすぐに疲れるという筋肉の弱さ、姿勢の悪さ等が、実は赤ちゃんのときの哺乳から影響が始まっている可能性があるといっても過言ではないのです。
おっぱいはあなどれませんね!
哺乳瓶を選ぶなら
様々な研究をもとに、哺乳するときの筋肉の動きができるだけおっぱいを飲むときと同じになるように配慮した哺乳瓶の乳首(ニプル)が開発されました。
それまでのニプルはただ穴が開いただけのもので、赤ちゃんがあまりアゴの筋肉を動かさなくてもミルクが出てくるように作られていました。
ひどい場合は、哺乳瓶を傾けただけでミルクがポタポタと落ちてくるので、赤ちゃんは寝ていてもお口の中にミルクが流れてきました。
それを改善して、おっぱいを飲む時と同じようにお口を運動させないとミルクがでないように作られたのが、例えば大塚製薬ビーンスタークの二プルです。
下の絵のように二プルの中に弁があり、赤ちゃんがハグキで噛むとミルクがでる仕組みになっています。
どうしてもおっぱいのみで育児できない場合には、このように噛んで飲むように作られたニプルを使いましょう。
最後に
正直なところ、2人の子どもを育てる過程で私のおっぱいはすっかりかつての面影をなくしています。
形だけでなく、柔らかさといい、張りといい、「産む前にヌード写真撮っておけばよかった?」などと本気で後悔することも…。
とはいえ、おっぱいが自分の意志とは関係なく子どもたちのために「機能するおっぱい」に変化し、その役目を立派に果たしたことが誇らしくもあり、感謝の気持ちです。
超ナイスボディで世の男性を魅了しつづけたグラビアクイーン武田久美子さんが出産し、赤ちゃんにおっぱいをあげている写真を公開したことをご存知でしょうか。
あのたわわなおっぱいをおいしそうに頬張る赤ちゃんと、それを満足げに見つめる久美子さん。
まさに母子ともにおっぱいを満喫している幸せな写真でした。
人間が動物であること、そして身体はちゃんと次の世代を生かすために機能していることを実感できるおっぱい。
そのすばらしさをどのお母さんにも味わって欲しいと思う今日この頃です。
産婦人科の看護婦さんや助産婦さんから、ときどき「お母さんがおっぱいあげるのををあきらめちゃって」という話を聞きます。
「おっぱいでないと~になる」というような脅しや、逆に「哺乳瓶保育でもおっぱいと変わらないよ」と安易に伝えることなく、赤ちゃんとお母さんがたっぷりおっぱいを味わえる喜びをたくさん知って欲しいと思います。
共働きの方も、育児休暇等、子育てを取り巻く環境はずいぶん改善されてきました。
赤ちゃんにおっぱいをあげられるのは、人生のたった数年間。
宝の持ち腐れにならないよう、おっぱいをめいっぱい活用しましょう!