あなたとご家族の健康のために
皆さんはタバコを吸いますか?
吸わない方でも、タバコの害については結構耳にしたことがあるのではないでしょうか。
身体に与える悪影響は上げればきりがないほどで、嗜好品の中ではすっかり悪役。
愛煙家の方は年々肩身の狭い思いをしていらっしゃることと思います。
最近のタバコに関わる風潮は、デメリットを強調しすぎて脅しとも思われるプレッシャーを感じます。
タバコにはタバコの存在価値があるはずですから、デメリットを理解した上で喫煙を選ぶなら自分が責任を持って決めたことですので問題とはいえません。
ただし、デメリットを知らない方、あるいは周りにデメリットを与えている方にはちょっと考えてもらいたいのです。
このトピックスは禁煙を声高に叫んでいるものではなく、あくまでも情報提供の一つととらえてください。
タバコを吸う、吸わないを決めるのはあなた自身。
気楽にのぞいてくださいね。
タバコの影響いろいろ:自分に対して
喫煙が全身の病気と関連が深いことは、これまでに様々な動物実験や統計データで証明されてきました。
大まかには次のような疾患の危険が高まると言われています。
1)ガン:喫煙はガンにかかる原因の約30%を占めるといわれます。
すなわち、ガン患者の3人に一人は喫煙によってガンに罹ってしまったともいえます。
タバコの煙の入り口である喉頭部、その先の肺のガン、また口の中や咽頭、食道のガンと喫煙は密接に関連していることが明らかとされています。
2)呼吸器系疾患:喫煙によって慢性気管支炎、肺気腫などの疾患の危険が増します。
すなわち、咳が止まらなくなったり、呼吸が苦しくなる危険があります。
3)循環器系疾患:喫煙によって全身の動脈血管が硬化して、血管が詰まったり破裂したりすることにより、心筋梗塞や狭心症、大動脈瘤、クモ膜下出血、脳血栓症などが引き起こされます。
4)その他:味覚や嗅覚が鈍くなったり、食事がおいしく感じられなくなることがあります。
また、年齢よりも顔のしわが増えたり、頬のあたりの肉が少なくなってこけて見える「スモーカーズフェイス」と呼ばれる顔つきになることも知られています。
タバコと歯周病の関係
喫煙は、お口の中のガンとともに、歯周病にも密接な関連があることが明らかとなってきました。
吸い込まれたタバコの煙は、歯やハグキ、口の中の粘膜に触れながら気管、そして肺へと送り込まれます。
つまり、お口の中の様々な組織は、できたてのタバコの煙が初めて触れる場所です。
喫煙者では、歯周病の発症の危険が高まるとともに、歯周病にかかっている人はその症状が重くなるとされています。
例えば、歯周病患者の中で喫煙者と非喫煙者とを比べると、喫煙者の方が歯を支える歯槽骨がなくなってハグキが下がり、歯の揺れが大きくなる傾向があります。
特に、一日に吸うタバコの数や、これまで何年喫煙してきたかは、歯周病で失う歯の数と比例することが明らかとなっています。
これは、タバコの煙の中の200種類を越える有害成分(ニコチンなど)がお口の粘膜に吸収されることによって、お口の中の免疫機能を低下させるためと考えられています。
歯周病は病原菌によって起こりますが、喫煙者では菌による攻撃を防御する働きが弱まるのです。
しかも、喫煙者は歯周病治療を受けても、治りが悪いことが知られています。
これはタバコの煙の成分がお口の中の粘膜の傷を治す細胞に待ったをかけるためなのです。
したがって、喫煙者の方は治療が長引いたり、再治療が必要になったりと、歯科医院に通う回数が増すことになります。
(写真はあるヘビースモーカーの方のお口の中)
タバコと歯・ハグキの色の関係
タバコの煙の中にはタールなどの着色物質が含まれています。
一般にタバコのヤニと呼ばれていますね。(上の写真参考)
この着色物質が歯面につくと、さらにその表面にはプラ-クがこびりつきやすくなり、歯のザラザラ感として認識されます。
さらに、タバコの煙はビタミンCを破壊するため、ハグキのメラニン色素が沈着しやすいという問題があります。
たとえば、写真は上は非喫煙時(13歳)、下は19歳から1日10本喫煙した方が24歳のときのお口の様子です。
喫煙した5年間の間にハグキが黒ずんでいることがわかります。
なお、タバコのヤニは、研磨剤によって歯の表面を磨いたり、特殊な機械で歯の表面に細かい粒子を吹き付けたりして落とすことが出来ます。
しかし、ハグキの着色は歯の表面に付いたヤニと違ってなかなか取れません。
口元の美しさを気にする方にとっては大きなマイナスとなります。
吸った煙だけじゃない!タバコの影響:回りの人に対して
さて、ここまではタバコの有害性について、喫煙者自身に関わる問題を挙げました。
しかしご存知と思いますが、タバコは喫煙者のみでなく周囲の人々をも巻き込む問題です。
タバコを吸っている人のそばでこの煙を吸い込むことを受動喫煙あるいは間接喫煙と呼びます。
喫煙者自身の吸う煙(主流煙))と比べて、タバコ自体から立ち上る煙(副流煙)の方が有害物質の濃度が高いことが知られています。
ですから、喫煙者のそばにいる人にとって、間接喫煙による身体への害が問題になるわけです。
具体的に家族への影響として示してみましょう。
夫・妻ともに非喫煙の場合と比べて、夫が1日20本以上喫煙する夫の妻は、タバコを吸わないにもかかわらず肺ガンによる死亡率が2倍になるそうです。
また、家族に1日20本以上の喫煙者がいた場合、3歳児が喘息様気管支炎にかかる確率は3倍近く高くなるそうです。
さらに、夫が喫煙者の場合、妊娠した妻が間接喫煙していると流産や早産、低体重児出産の危険や、生まれた赤ちゃんの肺炎や気管支炎に関わることが知られています。
実際に、ヘビースモーカーの家族がいる家庭の子どもにハグキの着色(色素沈着)が見られるという報告もあります。
喫煙者が周囲の人の健康に対して害を与えることは許されるはずがありません。
もしご家族に喫煙者がいらしたら、できるだけ間接喫煙を避ける環境作りを考える必要があるでしょう。
(ちょっと寒くても、ご家族のためにはベランダの蛍になってもらいましょう)
終わりに
喫煙者には、
1)タバコについてデメリットを知っている上で喫煙してる方
2)デメリットを知って止めたいけれど禁煙できない方
3)デメリットを知らないで喫煙している方
がいらっしゃいます。
タバコは嗜好品として長い年月多くの人に楽しまれています。
いくら健康に悪いことが明らかになっているとはいえ、あくまでも自分のことは自分で決めれば良いわけですから、1)の方にはあえて禁煙をお勧めしません。
他人に害を与えず、マナーを守って吸う限りは、他人が禁煙するよう攻め立てる必要はありません。
でも、2)と3)の方には、健康に対する関わりを知って頂いた上でもう一度喫煙について考えていただけたらと思います。
どんなことにもメリットとデメリットがあります。
喫煙についても自分の秤にかけて選んで頂きたい、そのための情報提供として取り上げましたが、いかがだったでしょうか?
実は当院の院長も過去にはタバコを吸っていました。(現在は吸いません)
歯科医師の中には「喫煙する医療従事者なんてもっての外!」とおっしゃる方もちらほら。
でも、自分で選ぶことですから、回りに迷惑をかけないように配慮してタバコを楽しんでいくしかありません(もちろんベランダの蛍でした)。
歯周病治療の点からみれば、患者さんに禁煙を勧めたほうがよいことは明らかですが、当院ではあくまでも情報提供のみ。
最後に選ぶのは患者さん自身です。
そしてどのような選択をしても、その方のお口の健康のために出来る限りのサポートをしていく姿勢を持ちたいと考えています。